保命酒 / 鞆の浦(広島県福山市鞆町)特産
保命酒(ほうめいしゅ)とは
保命酒は、広島県福山市・鞆の浦(とものうら)特産の薬味酒です。
製法は「みりん」を原酒とし、甘口の酒の中に桂皮などのハーブ16種を漬け込んで造ります。酒類の区分としてはリキュール酒で、アルコール分は約14%です。
薬味酒だけあって独特の薬味香はありますが、質の良いみりんから生まれる米由来の旨みとコクに深みがあり、飲み慣れるほど美味しさが増していくような感のあるお酒です。
保命酒の発祥は古く、江戸時代初期までさかのぼります。このことから、日本最古級の和製リキュールとも言われています。
古くから万病・長寿に良いとされ、江戸期には備後福山藩(現在の広島県福山市)の御用酒として、禁裏幕府への献上品や贈答品としても喜ばれてきました。
慶応3年(1867年)にはパリ万国博覧会に出品、同幕末期においては黒船で日本を訪れたペリー提督も饗宴の席で口にし、宴席の話題をさらうほどであったと伝わっています。のちに明治六大教育家の一人で慶應義塾を創立した、かの福沢諭吉も手土産に使用したと伝えられています。
保命酒は桂皮などの薬味16種をみりん酒に漬け込み、じっくりと成分を抽出させて造り出されます。
麹(こうじ)の糖化力によって米の旨みを充分に取り出し、米由来の甘みと浸透圧がかかることによりエキスが抽出されます。
これに含まれる必須アミノ酸9種類(※)を含む18種類のアミノ酸はコクを与えてくれるばかりでなく、身体に嬉しい成分であることが知られています。このことからも、保命酒造りにおいてはベースとなる良質のみりん造りをまず第一と考えることが何よりも大切なことです。
※ リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、スレオニン、トリプトファン
保命酒の歴史
保命酒が生まれたのは、万治二年(1659年)江戸時代初期。大阪の漢方医の子息、中村吉兵衛が当時の鞆の浦(鞆の津)で造られていた「吉備のうま酒(現在のみりん酒のようなもの)」というお酒に中国産の生薬を漬け込んだのが始まり。
中村家は鎖国時代に、唯一国外に開かれていた港、長崎の出島に薬草の買い付けに行っていましたが、その道すがら、鞆の津(※)に立ち寄り、「吉備のうま酒」と出会ったのです。以降、現太田家住宅の場所で「十六味地黄保命酒(じゅうろくみじおうほうめいしゅ)」の醸造をはじめます。これが保命酒の元祖です。
江戸時代、保命酒は福山藩の庇護を受けて畳表などと同様に備後の特産品として全国にその名を広めましたが、幕末には黒船・日米和親条約などで知られるペリー提督一行の接待に食前酒として用いられたことでも有名です。
※津・・・今でいう港。船着き場の意。地乗り航海(沿岸航海)が主流だった古代・中世から近世にかけ、鞆の港は「潮待ちの港」として大いに栄えました。往時をしのぶ常夜燈、雁木、船番所、波止場、焚場といった江戸時代の港湾施設が今もなお揃って残されているのは全国でも鞆の浦だけです。
保命酒の語源、読み方
保命酒という名前の語源には諸説ありますが、「延命保寿」の意から「保命酒」と呼ばれるようになったとされる説がもっとも有名です。
かつては「十六味地黄保命酒」と呼ばれていましたが、現在では「保命酒」と呼称されるのが一般的です。
読みは「ほうめいしゅ」と読みます。が、時々「ほめいしゅ」とも言われます。鞆の浦や福山など現地ではどちらの呼び方でも通じますが、本家本元の保命酒蔵元ではやはり「ほうめいしゅ」と呼ばれています。
近年はパソコンやスマートフォンなどの漢字変換で「保命酒」とすぐに変換できないことが多いため、「芳名酒」「保名酒」「保明酒」などの検索キーワードで探される方も多くいらっしゃるようです。これらのキーワードによる検索結果では保命酒関連の情報に少し届きにくいため、これを機会として「保命酒(ほうめいしゅ)」にお見知りいただければ幸いです。
保命酒の美味しい飲み方
保命酒は「リキュール」です(アルコール分約14%)。
みりんがベースということもあって甘みの強いお酒です。
おすすめの飲用方法としては、ストレート(希釈なし)で食前酒として、食前酒グラス・冷酒グラス・ぐい呑みグラス・おちょこなどお気に入りのグラスで1杯〜2杯程度お楽しみください。
ちなみに、幕末のペリー提督一行は前述の通り「食前酒」として保命酒を飲まれました。幕末ファンなら往時に想いを馳せつつ保命酒を味わってみるのも「味のある」楽しみ方だと思います。
保命酒は桂皮など16酒類のハーブのエキスが入ったお酒であるため、薬味酒独特の味わいに始めは戸惑うかも知れません。しかし何度か繰り返し味わうたび、上質のみりんを原酒としただけあって、実にクセになる深みがあります。
夏バテ防止、冷え防止を意識した飲み方としては、夕食後やおやすみ前に1回20〜30ml程度(おちょこ1〜2杯程度)を目安に、毎日少しずつ、続けて飲まれることが推奨されています。アルコールの力を借りて、身体がポカポカしてくるのが実感できるかと存じます(アルコールを含むため、お車・自転車の運転前はお控えください)。
その他、夏はロックや水割り、寒い冬にはお湯割りや燗酒にして温めて飲むのもおすすめです。コーヒーに入れてアイリッシュコーヒーのような形で楽しまれるのも大変おすすめです。
いずれにせよそのままでは飲みにくい、と思われる方は以下のようなアレンジを加えてみてください。
- ☆水割り・お湯割りで
- ☆炭酸・ジュース割りで
- ☆ウーロン茶割りで
- ☆コーヒー、紅茶に入れて
- ☆梅など果実を入れて
- ☆ロックで(甘みが気になるならレモンスライス等を添えて)
「鞆の浦のお土産」としての保命酒
広島県の観光名所である鞆の浦で一番著名なお土産品は「保命酒」です。
健康のためのお酒というと、体調を崩されている方や高齢の方のみが注目していそうなイメージがありますが、近年、保命酒は「上質なみりんから作られ、アミノ酸を豊富に持つ」その成分から「美容にも大変良い」としてテレビ・全国誌などで取り上げられることがあり、若者、特に女性の方に対し、人気が高まっています。
現在では、従来の保命酒をもっと飲みやすくした「保命酒で作った梅酒」や「保命酒で作ったあんず酒」「保命酒で作った生姜酒」などの商品もあり、薬味酒独特の薬味香が苦手な方でも比較的飲みやすい商品が誕生しています。
鞆の浦には現在、4社の保命酒蔵元が存在します。どちらの店舗も保命酒の試飲サービスを行っており、気軽に味を試すことが可能です。配合や製造工程などが蔵元により異なるため、保命酒と言ってもいろいろな味わいがあるのが面白いところです。
各店舗とも、趣のある店構えにて旅人を快く迎えてくれます。鞆の浦観光の折にはぜひお楽しみください。
保命酒 関連商品(ノンアルコール製品)
ノンアルコールで保命酒の味わいを気軽に味わいたい方には、保命酒・保命酒粕で作った酒粕飴「保命玉(ほめだま)」をおすすめいたします。保命酒粕(みりん粕)の自然な甘みと、ほのかに漂う保命酒の風味が特徴の飴玉です。
昔ながらの製法に加え、水あめ・グラニュ糖といった昔ながらの原料が主成分(人工甘味料は不使用)ですので、どこかしら懐かしさも感じさせる、優しい味わいののど飴としても好評です。
保命酒 関連商品(保命酒の酒粕/みりん粕)
近年、話題になることの多い「みりん粕」。鞆の浦の保命酒粕と言われる酒粕は、このみりん粕です(保命酒はみりんをベースに作るリキュールです)。
日本酒の酒粕に比べ、「甘み」が特徴のみりん粕。ほんのりとしたその甘さを活かして、あぶってそのまま食す方もおられますし、粕汁・お漬物(粕漬けの漬け床・かす床)はもちろん、甘酒の原料としてお使いいただくことも多いです。
当店が販売する岡本亀太郎本店の保命酒粕は、そのままでも十分美味しく召し上がっていただけるよう、蔵元独自のレシピにより甘くまろやかに調味された特製みりん粕です。
例年、11月頃が漬物のシーズンと言われますが、その頃には「本みりん」とともにこちらの保命酒粕をお求めになるお客様からのご注文やお問合せで当店も大変にぎわいます。